ドクターズ・ファイル

 

ドクターズ・ファイル Vol.4475より


閑静な住宅街が広がる千鳥町駅から徒歩5分。

「こんな歯科医院が地域に一軒くらいあってもいいじゃないかな」という松本理(わたる)院長は、一般大学を出てから歯科技工士になり、それから歯科医師になったという経歴の持ち主。

人が人生を幸せに過ごすことの一助となるのが歯科治療であると考える松本院長は、「どんな治療にも利点もあれば欠点もあります。この治療は100%良い、この治療は100%悪い、などということはありません。」と言う。

歯を削る、歯の神経を取る、歯を抜くなど、後戻りできない治療が多い歯科治療の中で「よく知っていれば選ぶであろう治療、そういう治療を受けていただきたい」、どの患者さんにも『特別』に対応することを心掛けています。」と語る。

「知れば知るほど信頼関係が深まる、そういう歯科医院でありたい」という松本院長が考える歯科治療についてじっくりと伺った。(取材日2014年3月10日)


真摯に取り組む歯科治療



―先生のお考えになる良質な歯科治療とはどういうものでしょうか?

私が歯学部の学生の時に教授のご厚意により生化学教室の研究に立ち会わせていただいたことがあるのですが、遺伝子が全く同じ細胞を使った実験なのに結果にばらつきがある、つまり同じ反応をしないのです。

また、基礎医学の勉強を進めるうちに、全く同じ遺伝子を持つ純系のマウスを使った実験でも結果にばらつきがあることを知りました。

極端な話、薬の致死量を決める実験でも、個体により生きているか死んでいるかに違いがあるのです。遺伝子が全く同じ、月齢が同じ、体重がほぼ同じ、生活環境が同じ純系のマウスでさえです。

ある治療法の治療効果や診断法というのは統計的な傾向なのであって、多くの場合必ずしも100%そうなるというようなものではないのです。

考えてみれば、患者さんお一人お一人は体質も違えば環境も生活習慣も異なります。同じ治療を施しても結果が異なるのはある意味当然のことです。

また、患者さんごとに望む治療も異なります。何が何でも歯を抜きたくないという患者さんがいるかと思えば、「この歯が痛いから抜いてほしい」という患者さんもいらっしゃいます。

患者さんお一人お一人のことをよく伺って、10年後20年後から今を振り返るという思考プロセスを繰り返しながらそれぞれの望む治療を提供していくというのが当クリニックの歯科治療です。

患者さんの思いを伺えば自分の歯を出来る限り長く使いたいという方がほとんどですから、先ずはご自分の歯が出来るだけ長く使えるように手を尽くし、経過を見ながら次のステップに進んでいくということが多いですね。



―開院までのご経緯を教えてください。


高校卒業後は東京都立大学で数学を学んでいましたが、卒後の進路を考えたときに技術を身につけそれで食べていくことができればと考えるようになり、大学卒業後に東京医科歯科大学付属の歯科技工士学校に入学して歯科技工士になりました。

その後、歯科技工士として都内のクリニックに勤務したのですが、歯科技工士の仕事をしているうちに歯科全体についてもっと知りたいという思いが強くなり、当時学士入学の制度があった大阪大学の歯学部に学士入学をしました。

入学時に抱いていた勉強のテーマは二つで、基礎医学(特に治癒のメカニズム)を勉強することと、医療をどう考えるか(医療哲学)を勉強することでした。

当時は生活費に充てるために週6日アルバイトをしていましたが、睡眠時間を削るなど可能な限りの時間を作り、与えられたカリキュラム以外にも積極的に勉強しました。

講義に来られた医学部の皮膚科の助教授の研究室に出向き皮膚の治癒の研究成果について教えていただいたり、東京の他大学へ治癒にかかわる物質の知見を聞きに行ったり、また骨の代謝の研究をされていた生化学の教授にお願いして一般歯科医師向けに骨のできる仕組みについてのセミナーを企画開催したことなどもありました。

卒業後は、口コミで遠方から患者さんが訪れるというクリニックに勤務して歯科医師としての経験を積み、さらに自分がめざす患者さんにとっての良質な医療を実現するために当クリニックを開院するに至りました。


―開業の際にエリアや内装にこだわった点はありますか?


当クリニックは、地元の方もいらっしゃいますが、口コミやインターネットの情報からいらっしゃる患者さんがほとんどなので、ある程度交通の便がいいところという以外にはあまりこだわってはいませんでした。

豪華で洗練されたインテリアのクリニックを作ることもできたのでしょうが、私は高級感よりも患者さんが寛いでくださることの方が大切に思えて、あえて和みやすい空間にしたつもりです。

クリニック開設とほぼ同時に娘が生まれたのですが、娘が子どもの頃に描いた絵を額に入れて今でも待合室に飾っています。子どもの絵というのは独特の力があって素晴らしいものですね。治療後、患者さんと待合室でコーヒーを飲んでおしゃべりしたなんてこともありますね。

 

 

―初診の患者さんが治療を受けるまでのプロセスを教えてください。


まずは、ご予約をいただきます。当クリニックでは、1人の患者さんの治療に専念したいので、複数の患者さんの治療を同時に行うことはしていません。また患者さんをお待たせしないよう、ご予約時間はしっかり守っています。

患者さんのお話をじっくりと伺うことを、通常はカウンセリングやコンサルテーションと言うと思いますが、当クリニックでは、「話し合い」と思っています。

患者さんは、お一人お一人症状も治療の効果も異なりますし望んでいる結果も異なりますので、必要な検査をして治療方針を一方的に説明するというスタイルでは本当に良質の治療はできないと考えています。

それは、たとえ分かりやすい説明だったとしても、患者さんをある方向に誘導しようと思えば出来てしまうところに、患者さんの本当の思いが反映されない可能性を感じるからです。

何に困っているのか、何を心配しているのか、どういう結果を望むのかなどをじっくり伺い、それに対する必要な知識を私から動画や写真を利用してていねいに説明します。

単に複数の治療方針を並列して提示するだけではなく、患者さんにも知識を身につけていただき、患者さんと一緒になって治療方針を組み立てていくのです。

患者さんと話し合いをしていくうちに、私自身、初めは思いつかなかった別の治療方針を思いつくことなどということもあります。

初回の診断と話し合いには約90分、丁度映画1本分ぐらいのお時間をいただき、じっくりと治療に向き合う準備をします。

その後も1時間ずつの話し合いを1~2回行い、患者さんが望まれれば処置へと入っていきます。

もちろん、痛い、腫れた、取れたなど、すぐに処置が必要な場合には先ずはその治療を優先します。


「あんしん」「なっとく」「せきにん」をキーワードに治療にあたる


―治療の際に心がけていることはありますか?

歯を削ったり神経を取ったりするとそれは元に戻すことはできませんから、後になってその治療方針が妥当だったかどうかを検証することは難しいですね。

納得のいく治療を受けていただくためには、たとえ「抜く」に至る場合でも、能率は悪くても、それでも「できることはやった」、「考えることは考えた」というプロセス、言い換えれば『治療物語』がとても重要です。

よくインターネットで熱心に勉強された患者さんから「こういう治療をして欲しい」と言われることがありますが、本当に望んでいらっしゃるのはその「治療」ではなくて、「その治療を受けることによって得られる結果」なのですね。

もしかしたら同じ結果が得られる他の方法があるかも知れませんし、もっと言えば、もっと良い結果が得られるさらに別の治療方法があるかも知れません。

どっちにするかなどと決めつけないで、常にそれ以外の「その他」の可能性を頭の中に残しておくことが大切ですね。


―他の医療機関とも連携されているのですね。


検査や難しい外科手術など、当クリニックで対応できないものは信頼できる他の医療機関をこちらが探してご紹介しています。

私は患者さんのことを最後まで責任を持ちたいと思っていますので、他の医療機関での処置時には、必要な資料を提供したり、重要な局面には立ち会わせていただいたりしています。

患者さんはいつも診察している私がいることで安心できるでしょうし、術後の治療を引き続き当クリニックで行う場合にも連携がスムーズにできます。

たとえ他の先生方のお力を借りるにしても、また多くの方々に助けていただくにしても、もし任せていただけるのでしたら、「私が責任を持って見届けます」という姿勢を貫きたいと思っています。


―感染対策には細かく気配りされていますね。


歯科治療では出血するケースが多くありますので、院内感染を防ぐための工夫には気を配っています。

ゴム手袋は患者さんごとに使い捨てにしていますし、歯を削ったりする器具や水を吹きかけたりするノズルは患者さんごとに熱消毒済みのものに取り替えています。使用する大きな機材にはビニールなどの覆いをかけ、患者さんごとにかけた覆いを外して交換します。

説明しないと分っていただけない部分ですが、手間暇かけて消毒をすることで感染を防ぐよう務めております。

家族の治療にも全く同じようにしています。

患者さんには安心して治療を受けていただきたいと思います。


おわりに


―読者へのメッセージをお願いします。


患者さんが自分の歯について知ること、そして必要な歯科治療に関する知識を身に付けることはとても大切なことです。

今はインターネットによりさまざまな情報が手に入りますが、反面、個々の単語や間違った知識に振り回されている方もいらっしゃいます。

もし、現在受けている治療に不安や疑問がある場合は、インターネットで調べるだけでなく、是非、実際にセカンド・オピニオンやサード・オピニオンを受けてみてください。

虫歯の程度や、歯周病の程度など、歯の状態は話だけでは分からないことが多いものです。

当クリニックでは、診断だけでも受け付けていますし、実際に遠方(九州)の方で「治療に通うのは難しいけれど、自分の受けている治療をこのまま続けても大丈夫かどうか診断してほしい」という患者さんもいらっしゃいます。

月に1度は日曜日にも相談を行っていますので、お気軽においでください。

どこで治療をお受けになるかにかかわらず、皆様にはぜひ皆様の望む治療、よく知っていれば選ぶであろう治療、そういう治療を受けていただきたいものと思っています。

マツモト歯科医院 東京都大田区千鳥1-10-5、電話:03-5700-1444  院長 松本 理(まつもと わたる)1954年(昭和29年)神奈川県川崎市生まれ、1977年東京都立大学理学部数学科卒業、 1979年東京医科歯科大学歯学部付属歯科技工士学校卒業、1986年大阪大学歯学部卒業、1989年(平成元年)8月マツモト歯科医院開設